中国酢都

匠の工芸

 『中国医薬大典』には、「酢の生産は浙江の杭州と紹興の二県が最も良いとされるが、実際は江蘇の鎮江が最も優れている」と記載されている。鎮江香酢は糯米を原料とする、典型的な米酢である。梁の時代、陶弘景は『神農本草経注』の中で、鎮江の米酢の用法について記載している。ここから、鎮江香酢は1400年あまりの歴史を有するということがわかる。

鎮江香酢がその名を真に轟かせはじめたのは清の終盤である。恒順酢廠の発展に伴い、鎮江香酢は大きな名声を得るようになった。『鎮江市志』の記載によれば、1840年、鎮江人である朱兆懐が朱恒順槽坊を設立した。最初は百花酒のみ生産していたが、1850年から、酒粕を原材料として酢を作るようになり、一挙に成功してから、何代もの努力を経て、百年の老舗である鎮江香酢の名は遠くまで知られるようになった。

鎮江は三面を山に囲まれ、残る一面は長江に隣接する。水源が多く、河川が網の目のように走り、淡水資源が豊富な土地である。水質は混じりっけなく清らかで、甘く冷たい。そして鉱物の含有量も高く、香酢の醸造に適した条件が備える。これに独特の巧みな醸造技術が加わることで、鎮江香酢が出来上がる。原始的ではあるものの、却って自然な醸造方法として原料の鮮度や味の純粋さを保証することができるのである。

中国の制酢は3000年の間ずっと手作業で行われてきた。醸酢の秘伝は口と手によって代々受け継がれ、大きな変更は行われなかった。鎮江香酢は、良好な酢酸菌を採用し、固体分層発酵およびアルコール化、濾過の三大プロセスを経て、酢の完成となる。なかでも、濁酒作りは最も重要なプロセスである。熟成したにごり酒のなかに麦かす、もみぬかを混ぜ入れ、恒順オリジナルの酢酸菌種を加え、21日間攪拌し続けることで、酢酸菌の働きでアルコールが酢酸に変わり、酢も出来上がる。この21日間のプロセスこそ、「醋」という字の右側の「昔」の字が「二十一日」の組み合わせから出来ている所以なのである。40もの作業と70日以上の精製、さらに6—12か月の熟成期を経て出荷できるのである酢は匠の心が凝縮されている。

1840年に産声を上げた百年の老舗「恒順」は、鎮江香酢の最も代表的な生産企業である。独自の固態分層発酵の技術は、2006年には中国非物質文化遺産保護リストに選定された。鎮江の千年の技術が凝縮された醸酢の精髄は、中国南方の醸酢技術の伝統的特色と最高水準を代表するものであり、極めて高い歴史的、文化的、社会的価値を有している。

このような生産工程技術を採用して食酢を作るなら、始めから終わりまで「アルコール化」「どぶろく作り」「濾過」という三大工程を経る必要がある。大小40以上の工程と、60日以上の時間を要する。なかでも、濁酒作りは最も重要な工程で、熟成したにごり酒のなかに麦かす、もみぬかを混ぜ入れ、恒順オリジナルの酢酸菌種を加える。21日間攪拌し続けることで、酢酸菌の働きでアルコールが酢酸に変わり、酢となる。この21日間の工程こそ、「醋」という字の右側の「昔」の字が「二十一日」の組み合わせから出来ている所以なのである。

現在、恒順香酢は変わらず伝統の技術を堅持したうえで作られている。進取に努め、この170年というもの、伝統的な醤酢工房である恒順は、現在の中国において最大規模の、最高水準で現代化を達成した食酢生産企業、かつ全国の同業種で初めて上場した企業となった。恒順の生産品は国際金賞を5回、質に関する国レベルの金賞を3回立て続けに獲得し、中国の有名なブランドとしてEUの地理的表示産品にも選定された。また、恒順のブランドは「中国馳名商標」「アジアブランドセレモニー・ブランド賞」などの栄誉を立て続けに獲得している。